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おにももたろう
鬼桃太郎
尾崎 紅葉
「鬼桃太郎」幼年文學叢書、博文館、1891(明治24)年10月11日
N1 · 挑战 · 新字新假名 · 3,422 字 · 8 页
「夫婦の鬼」の図
さるほどに此触を聞く嬉しさ、茨木童子が
断落されし我片腕をも見たらん心地して、
此時なりと心ばかりは逸れども、
嚮に城門の敗戦に桃太郎と亘合わせ、
五十貫目の鉄棒もて、
右の角を根元より
摧折れたる創の今に疼むこと頻りにして、
不治の疾を得たりければ、
合戦なんど思いも寄らず、
かかる時子だにあらばと
頻りに妻なる鬼を罵りぬ、
されば妻の言いけるは、
伝聞く日本の桃太郎は、河に流れし桃より
生れて武勇抜群の小児なり、
尋常なる鬼胎より出でなん鬼児にては、
彼奴が敵手とならんこと覚束なし、妾夜叉神に一命を
奉げて、桃太郎二倍なる武勇の子を祷るべしと、
阿修羅河の岸なる夜叉神社に参籠し、三七日の
夜にして始めて霊夢を蒙り、その払暁水際に立出でて
見れば、いと大きなる
苦桃一顆浮波々々と浮来りぬ、
「夜叉神と阿修羅河」の図
扨はと嬉しく抱還れば、
待構えたる夫の喜悦たとうる方なし、
割きて見れば果せるかな、核おのずから飛で
坐上に躍ると見えしが、忽焉其長一丈五尺の
青鬼と変じ、紅皿のごとき口を開き、
爛々たる火焔を吐て矗と立たる
其風情、鬼の眼にさえ恐ろしくも、
また物凄くぞ見えたりける、