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まぞう

魔像

林 不忘

新版大岡政談

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页

青空文庫

これで、大体時間の見当がついて、さほどおそくもないようだと、ホッと安堵した玄蕃、もう一度考え直してみる。

不思議なのは、この刀だ。お城から帰った時、自分はこの部屋で着更えをして、その節、確かに差していた二刀を抜き取って、いつものように傍で世話をしていた奥に渡した。奥は、それを床の間へ持って行って、この鹿の角の刀かけに掛けた。その時は、勿論、このように鞘から柄にかけて綱でなぞ絡めてなかったのである。そんな馬鹿げたことをする訳もなければ、かりに子供のいたずらにしても、第一自分は、下城以来、一歩もこの部屋を出なかったのだから、そんな隙があるはずはないのである。ほんとに、宵から一度も、この座敷を明けなかったか――ウム、出た覚えはない。イヤ、待て。一度浴室へ参った。その時、帰って来て、刀はどうなっておった? どうもなっておらなかった。もしそのとき既に縛ってあったものなら、疾うに気がついておらねばならぬ――すると、それ以来、一歩も部屋を出なかったか? 出なかった! ずうッとここにおって、謡曲をさらっておった。ハテ、たった今、厠へ立ちはしなかったかナ――お! そうだ、いま厠へ行って帰って来たところだ! うウム、さてはその間に何者か忍び入って――だが、しかし、忍び入ってと申して、一体どこから忍び入ったというのだ。