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まぞう
魔像
林 不忘
新版大岡政談
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页
戸じまりはあの通り、さっき仲間が手分けをして見て廻ったではないか――。
ことによると、戸締りをする以前から密かに這入っておって……うフフフ、そも何者がこの屋敷へひそかにはいっておるというのじゃ?
大迫玄蕃は、床の間へ行って刀を取り上げながら、自分でもおかしくなって、瞬間、ふッとせせら笑った。
と、誰が――誰がとは何じゃ? きまっておる! あの、神尾喬之助に決まっておるではないか――玄蕃の顔に、浮かびかけた笑いが凍った。
手の、佐平太兼政お猿畠の大刀を見る。滅多捲きに捲き締めて、強く固く綱口を結んであるのだ。急には解けそうもない。
障子の外には、何やら生き物の呼吸づかいが、まだ犇々と感じられるのである。
急にあわて出した大迫玄蕃、カタカタカタとふるえを帯びて来た手で、その結び目を解こうと焦っている……。
声を揚げて、家人を呼ぼうか。
いや、五尺の男子、ましてや旗本、しかも、腕に覚えのあるはずの大迫玄蕃ともあろうものが、まだ宵の口に、さような意気地のない真似は出来ぬ。
が、何やら容易ならぬことがこの身に迫りつつある。何にしても、早うこの刀の綱を解いてしまわねば――玄蕃は、何時の間にか、額部に大きな汗の粒をませて、必死になっていた。