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まぞう
魔像
林 不忘
新版大岡政談
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页
それに、壁辰は御用も勤めている。十手を預かっていて、そのほうでは今江戸に鳴らしている大親分なのである。どんな事件で、何時どんな人がやって来ないとも限らないから、壁辰が家を明けても、客はすべて、お妙が引き受けて上げて待たしておくことになっているのだ。だから今も、この美男の職人が土間に立って案内を乞うたとき、お妙は、いつものように前掛けで手を拭きふき出て行ったのだが、その男のあまりな綺麗さには、お妙は、もうすこしで驚きの声をあげるところだった。何しに役者が来たのだろうと直ぐ思った。いや、役者衆にも、あんなのはちょっとあるまい――お妙はいま台所に立って、ぽうっとしてそんなことを考えている。
元日早々から、いまだに江戸全体は引っくり返るような騒動をしていた。何しろ、殿中の刃傷である。それも、斬ったの張ったのという生易しいのではなくて、お目出度い元日に、組頭の首が一つ脱れて飛んだのだから、大変なさわぎになったのは当然である。殿中では、何の意味もないにしろ、鯉口を三寸寛げれば、直ちに当人は切腹、家は改易ということに、いわゆる御百個条によって決まっているのである。