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まぞう
魔像
林 不忘
新版大岡政談
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 131,494 字 · 260 页
がその、女と言ってもよい美しい客の顔がお妙の眼の底にしっくり焼きついていて離れようとしなかった。
あの、西丸御書院番組与頭戸部近江之介が、殿中のお庭先で何者かに首を奪られ、そして、その首が新御番詰所へ投げ込まれて、同時に、お帳番の若侍神尾喬之助が出奔した元日から七日経った、七草の日の午後である。
この下谷黒門町の左官職壁辰の家に、親方の壁辰さんに会いたいと言って訪ねて来た、職人体の素晴しい美男であった。ちょうど壁辰は、近所に棟上げの式があって、弟子を伴れてそっちへ顔出ししていて留守だったので、娘のお妙が出て行って応対すると、今も言ったとおり、水の垂れるような美男である。左官の下塗り職人などの中には、どうかすると、下町の女をほろりとさせるような粋なやつが少くないし、それに、この下谷の壁辰ほど同業に名が知れていると、左官武者修行の格で諸国を流れている風来坊が、鏝一つ丼へ呑んで他流試合の気で飛び込んで来たり、または遠国から仲間の添え状を持って思いがけない弟子入りが来たりするので、母の死んだあと、父のために一切の切り盛りをしている娘のお妙は、どんな人が留守にきても、一応上げて待たしておくようにと、ふだんから父の壁辰に命令けられているのである。