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ろじんさん
魯迅さん
内山 完造
「図書」岩波書店、1955(昭和30)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,269 字 · 17 页
ときにはこんなことがあった。或る日、一人の婦人がぼくのところに来て魯迅先生に会いたいという、ちょうど魯迅さんはそこに来ておるんだが、婦人は知らない。ぼくがどんな用事で来たのかときくと、私の亭主というのは魯迅先生の弟子なのだが、今、警察にひっぱられている。出してくれと頼みにいったら、三百円もって来たら出してやるといわれた。ものを売ったり借りたりして二百円はできたが、あとがどうにもならない。その足りない百円を魯迅先生に頼みたいのだというんです。そこで魯迅さんにぼくが、会いますかどうしますか、ときいたら会いましょうという。そこでこの方が魯迅さんですというと、三拝九拝の礼をしてから話を繰返した。すると魯迅さんは、その正月に朝日新聞に「上海雑感」というのを書いて、それの原稿料がちょうど百円届いて、ぼくが現金でいま渡したばかりのところだったのです。それをそっくりその婦人にやってしまった。婦人が喜んで帰ったあとで、ぼくがあの人はだまされているんですよというと、そうだよ、だまされるのはわかっている、三百円とられちゃうのはわかっているけれども、わたしがどんなに説明してやっても、魯迅は金を出すのがおしいからああいうのに違いない、と納得しないにきまっている。