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すし

鮨

岡本 かの子

「文芸」1939(昭和14)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,272 字 · 26 页

青空文庫

その証拠には、盃の一つもさされると

「いやどうも、僕は身体を壊していて、酒はすっかりとめられているのですが、折角ですから、じゃ、まあ、頂きましょうかな」といって、細いがっしりとしている手を、何度も振って、さも敬意を表するように鮮かに盃を受取り、気持ちよく飲んでまた盃を返す。そして徳利を器用に持上げて酌をしてやる。その挙動の間に、いかにも人なつこく他人の好意に対しては、何倍にかして返さなくては気が済まない性分が現れているので、常連の間で、先生は好い人だということになっていた。

ともよは、こういう湊を見るのは、あまり好かなかった。あの人にしては軽すぎるというような態度だと思った。相手客のほんの気まぐれに振り向けられた親しみに対して、ああまともに親身の情を返すのは、湊の持っているものが減ってしまうように感じた。ふだん陰気なくせに、一たん向けられると、何という浅ましくがつがつ人情に饑えている様子を現わす年とった男だろうと思う。ともよは湊が中指に嵌めている古代埃及の甲虫のついている銀の指輪さえそういうときは嫌味に見えた。

湊の対応ぶりに有頂天になった相手客が、なお繰り返して湊に盃をさし、湊も釣り込まれて少し笑声さえたて乍らその盃の遣り取りを始め出したと見るときは、ともよはつかつかと寄って行って