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なるとひちょう

鳴門秘帖

吉川 英治

03 木曾の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页

青空文庫

そして、先に乱離となった原士の方も駈けあわせてきて、捲土重来の手ぐすねをひき、ふたたび疲れた弦之丞を危地へ誘い込もうとする。

もう最前の場所からこの平地までの間には、弦之丞の烈刀にあたって血みどろになったものが、少なくも八、九名はのた打っている筈だが、残余の氷刃が一ヵ所に晃々と集立すると、いっこう人数が減ったとはみえない。

そのおびただしい光ものが、チカチカきらめくたびごとに、弦之丞の命が、一分二分ずつ、磨り減らされてゆくのではあるまいか――どう倫を絶した使い手にしろ、疲れぬ肉体というものを持っている筈がない。

だが、静かにそこを冷観すると、なんという壮美な活景だろう。空には妖麗な金剛雲――地にはほのかな宵月の明り。

花には露の玉があり、草は柔らかい呼吸をしていた。そこへ、人間の生血が惜しげもなくフリまかれる。

かくて麗しい夜は夜だが、お綱は苦しい、修羅の刻々だ! 万吉も深い血の池へ溺れこんでいるようにもがいた。二人は縛められている松の根元を転々としながら、どうかして、縄を噛み切ろうと、さまざまに悶えて体を蝦のごとく折り曲げた。

すると、万吉の縛り付けられている松の木から、二、三間ばかり離れた所に、旅川周馬が身を折り敷いて、玉薬をこめ火縄を吹き、あなたにある弦之丞の姿を狙って、あわや短銃の引金を引こうと