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なるとひちょう
鳴門秘帖
吉川 英治
03 木曾の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页
「山鳥か何ぞでござりましょう」と打ち消すと、
「おお、あんな所に」
「何をお見つけなさりました」
「わしが昨日射た流れ矢の先がチラと見える」
という声を聞いて、隠れていた世阿弥はハッと思ったが、もうなおのこと身を動かすことはできない。
「あれは秘蔵の鷹の石打じゃ。あとで誰かに流れを越させて、拾っておいてくれるように」
「承知いたしました」と、啓之助が答えるのと一緒に、竹屋三位、不意に、ヤッと叫んで小手をひるがえした。矢羽の先が浮いている木の葉の中へ、小柄を投げて試したのだ。
それでも、何のそよぎもしないので、かれは初めて心をゆるしたが、小柄を打ったはずみに、己れのふところから金襴皮の料紙入れが落ちて、ズズズと岩の間へ辷りこんだのを知らずにいた。
倶利伽羅坂の方から、にわかに、殺気だった人声がしてくる――。
精悍な装いをした阿波の原士の十数人、一人の武士の両腕をねじとって、無二無三に引きずり上げてきた。それは脱走をもくろんで捕われてきた俵一八郎。見違えるほど痩せ細って、頬骨は尖り、目は青隈をとったよう、眉間にも血、腕にも血、足にも血……。ふた目とみられぬ姿である。