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なるとひちょう
鳴門秘帖
吉川 英治
03 木曾の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页
「お、来たか」と森啓之助、バラバラとそれを迎えながら、
「いく度となく山を騒がす憎ッくい奴、こんどは前神の石子牢へぶちこんで、身動きのならぬように致しておけ」
「石子牢? 合点です!」と、あけび蔓を輪にして提げていた一人の原士、流れへ寄ってザブザブとそれを濡らし、ピューッと手でしごいて紐のように柔らかくしたのを、「それッ」と向うへ投げてやった。
歯がみをしながら俵一八郎、見るまに、あけび巻きにされてしまった。その水気が乾くに従い、蔓は針金より固くなって、一分一分肉へ食いこんでいく一種の呪縛だ。
柵の向うでは、甲賀世阿弥が、息を殺してこの無残さを眺めていた。かれの太股にも鋭い小柄が立っていた。――だが、今はそれを抜くだけの微動もゆるされない。世阿弥は、流れる血さえない傷口をおさえて、ジッとこらえつめていた。
阿波の国だけにあった特殊な武家階級、原士という一族の中には、その頃までも、殺伐な野武士の血が多分に遺伝されていた。
蜂須賀家の家来であって、家来の束縛はうけていないし、無禄の浪士に似て浪士でもない。いわば、山野へ放ち飼いにされていた客分である。
領主の田数帳にある以外の山地は、どこでも、かれらの自由所領とされていた。