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なるとひちょう

鳴門秘帖

吉川 英治

03 木曾の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页

青空文庫

十一年以前からこの山牢に封じこまれている世阿弥と申す幕府の隠密でござる」

「やッ、世阿弥殿?」

「ご承知か」

「知っている!」と、一八郎、青白い顔を石の間からさし出した。世阿弥は、妖鬼に睨まれるような凄さをおぼえた。

「ウーム、なるほど。いかにも世阿弥殿であった。たしかにそこもとがこのつるぎ山にいるとは存じていたが、どうしても会うことができない。それゆえ、わざと、柵を破って山を騒がせ、そこもとの気がつくように致していたが……ああ、とうとうお気づき召されたか」

「や、では脱走する目的ではなくて?」

「なんで。――この山峡を脱走したとて、四面は山と海との二十七関、とても逃げおおせぬことは某も心得ている」

「うむ、仰せの通りじゃ。土佐境も讃岐越も逃げ道はない」

「しかし、お目にかかればもう本望でござる。世阿弥殿、一言お告げいたしたいことがある」

「オオ!」と顔を寄せあうと、二人の間へ、ザア――と箕を開けたような砂礫が落ちてきた。それをかき落して、また穴口を作りながら、甲賀世阿弥。

「わしも、お身に会ったなら、何ぞ消息が聞かれようかと、それ一念で、山牢の柵を破ってまいったのじゃ。