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なるとひちょう

鳴門秘帖

吉川 英治

03 木曾の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页

青空文庫

その眼が、以前から怨みつらみの数をならべて、男にものをいうような時、啓之助の気持も妙に荒んできて、食いちがっている二人の心と心とが、行く所まで、いがみあわなければ止まないのが常であった。

今も、かれはお米の眼色から、深い反抗が自分に燃えてくるのを感じて、

「身を売ってきた女ではない? フーン、だから、どうしろというのだ」と青ざめて、殊さらに冷たくいった。いう下からお米もまた、

「帰して下さいというんです!」と肩に波を打った。

「どこへ?」

「大阪の家へ」

「虫のいいことを――だれが!」

「か、かえして、くれないとおっしゃるんですか」

「知れたこッた」

「よ、ようございます――、あなたがお暇をくれないなら、私は私の勝手に大阪へ行きますから。立慶河岸のお母さんが、危篤だという早打がきているのに、帰らずにはおられませんからね……」

「嘘をいえ、そんな、見え透いた偽りをいっても、この啓之助が手放すものか」

「嘘ではございません、宅助に聞いてごらんなさいまし、たしかに、家から手紙が来ているのですから」

「くどい! 何といおうが、わしが大阪へ行くときには連れても行くが、そち一人でまいることはならぬ」