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なるとひちょう

鳴門秘帖

吉川 英治

03 木曾の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 页

青空文庫

「そ、そんなことをいわないで……」お米は我を折って、啓之助の膝へ泣きくずれながら、「――すぐに帰ってきますから、どうぞ、二十日ほどお暇を下さいまし、ほんとに、今いったような、知らせが来ているのですから」

「いけないッ」と、それでも啓之助が意地強く突ッ放すと、お米はもう嘘や頼みではきき入れられない口惜しさと捨鉢とで、

「あなたは鬼だ! 悪魔のようなお人です!」

「オオ、おれは鬼だ。お前がわしをそうさせたのじゃ」

「みんなに聞いて貰います、世間の人に何もかも話してやります。お関船の底へ無体に私をほうりこんで、その上にまだ……」

「大きな声をするなッ」

「しますッ。どっちが無理か世間にきいて貰います」

「ばか、ここは剣山の麓だぞ」

「向うの目付屋敷には、竹屋三位様がいらっしゃいます。三位様のお耳へ届くように、私はわざと大きな声でいってやるのです」いきなり立って、窓の障子へ手をかけた女は、もうヒステリックにうわずっていて、放っておいたら、威嚇ばかりでなく、ほんとに、何をしゃべりだすかしれないような血相だったので、啓之助もうろたえ気味に、

「ばか! つまらぬことを口走るな」