轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
つるはやみき
鶴は病みき
岡本 かの子
「文学界」1936(昭和11)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,495 字 · 53 页
昭和二年の早春、葉子は、一寸した病後の気持で、熱海の梅林が見度くなり、良人と、新橋駅から汽車に乗った。すると真向いのシートからつと立ち上って「やあ!」と懐しげに声を掛けたのは麻川荘之介氏であった。何という変り方! 葉子の記憶にあるかぎりの鎌倉時代の麻川氏は、何処か齲んだ黝さはあってもまだまだ秀麗だった麻川氏が、今は額が細長く丸く禿げ上り、老婆のように皺んだ頬を硬ばらせた、奇貌を浮かして、それでも服装だけは昔のままの身だしなみで、竹骨の張った凧紙のようにしゃんと上衣を肩に張りつけた様子は、車内の人々の注目をさえひいて居る。葉子は、麻川氏の病弱を絶えず噂には聞いて居たが、斯うまで氏をさいなみ果した病魔の所業に今更ふかく驚ろかされた。病気はやはり支那旅行以来のものが執拗に氏から離れないものらしい。だが、つくづく見れば、今の異形の氏の奥から、歴然と昔の麻川氏の俤は見えて来る。葉子は、その俤を鎌倉で別れて以来、日がたつにつれどれ程懐しんで居たか知れない。葉子の鎌倉日記に書いた氏との葛藤、氏の病的や異常が却って葉子に氏をなつかしく思わせるのは何と皮肉であろう。