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つるはやみき

鶴は病みき

岡本 かの子

「文学界」1936(昭和11)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,495 字 · 53 页

青空文庫

氏は立ち際に「あなたが二度目に××誌に書かれた僕の批判はまったく当って居ます有難かった。」と云った。それは鎌倉以後三四年たった時分葉子が××誌から書かされたもので「麻川氏はその本性、稀に見る稚純の士であり乍ら、作風のみは大人君子の風格を学び備えて居る為めにその二者の間隙や撞着矛盾が接触する者に誤解を与える。」こんな意味のものだった。葉子がより多く氏を理解して来たと自信を持ち出した頃のものだった。

汽車から降りてはっきりした早春の外光の中に立った氏の姿を葉子は更に傷ましく見た。思わず眼をそむけた。頭半分も後退した髪の毛の生え際から、ふらふらと延び上った弱々しい長髪が、氏の下駄穿きの足踏みのリズムに従い一たん空に浮いて、またへたへたと禿げ上った額の半分ばかりを撫で廻わす。

「あ、オバ○!」

不意の声をたてたのは反対側の車窓から氏を見た子供であった。葉子は暗然として息を呑んだ。

「すっかり、やられたんだな。」

葉子の良人も独言のように云ったきり黙って居た。

その日の夕刻、熱海梅林の鶴の金網前に葉子は停って居た。前年、この渓流に添って豊に張られた金網のなかに雌雄並んで豪華な姿を見せて居たのが、今は素立ちのたった一羽、梅花を渡るうすら冷たい夕風に色褪せた丹頂の毛をそよがせ蒼冥として昏れる前面の山々を淋しげに見上げて居る