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おうむぐらかえくびでんせつ
鸚鵡蔵代首伝説
国枝 史郎
「冨士 特別増大号」1937(昭和12)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,083 字 · 26 页
玩具のような可愛らしい両刀を帯び、柄へ時々手をかけてみせたりするのであるが、やはり恐くないのであった。旅をして来たのであろう、脚絆や袴の裾に、埃だの草の葉だのが着いていた。
「坊ちゃん」と女は云った。
「あそこに見えるお蔵、何だか知っていて?」
眼の下の谷に部落があり、三四十軒の家が立っていた。農業と伐材とを稼業としているらしい、その部落のそれらの家々は、小さくもあれば低くもありして、貧弱しかった。
上から見下ろすからでもあろうが、どの家もみんな、地平に食い付いているように見えた。信州伊那の郡川路の郷なのである。西南へ下れば天龍峡となり、東北へ行けば、金森山と卯月山との大渓谷へ出るという郷で、その二つの山の間から流れ出て、天龍川へ注ぐ法全寺川が、郷の南を駛っていた。川とは反対の方角、すなわち卯月山の山脈寄りに、目立って大きな屋敷が立っていた。高く石崖を積み重ねた上に、宏大な地域を占め、幾棟かの建物が立ってい、生垣や植込の緑が、それらの建物を包んでいるのであった。女の云った蔵というのは、それらの建物の中の一つであって、構内の北の外れに、ポツンと寂しそうに立っていた。