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おうむぐらかえくびでんせつ
鸚鵡蔵代首伝説
国枝 史郎
「冨士 特別増大号」1937(昭和12)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,083 字 · 26 页
部屋の中央の辺りに一基の朱塗りの行燈が置いてあって、熟んだ巴旦杏のような色をした燈の光が、畳三枚ぐらいの間を照らしていた。
その光の輪の中に、黒漆ぬりの馬盥が、水を張って据えてあり、その向こう側に、髪を垂髪にし、白布で襷をかけた女が坐っていた。そうして脇下まで捲れた袖から、ヌラヌラと白い腕を現わし、馬盥で、生首を洗っていた。生首はそれ一つだけではなく、その女の左右に、十個ばかりも並んでいた。いずれも男の首で、眼を閉じ、口を結んでいたが、年齢からいえば、七八十歳のもあれば、二三十歳、四五十歳、十五六歳のもあった。首たちは、燈火の輪の中に、一列に、密着して並んでいた。その様子が、まるで、お互い生存ていた頃のことを、回想し合っているかのようであった。光の当たり加減からであろうが、十七八歳の武士の首は、鼻の脇からかけて口の横まで、濃い陰影を、筋のように附けていたので、泣いてでもいるように見えた。
女は、菊弥が入って来て、「あッ」と叫んで、ベッタリ坐っても、しばらくは顔を上げずに、額へパッと髪をかけたまま、馬盥に俯向き、左の手で生首の髻を掴み右の手の鬱金の巾で、その生首を洗っていた。