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おうむぐらかえくびでんせつ

鸚鵡蔵代首伝説

国枝 史郎

「冨士 特別増大号」1937(昭和12)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,083 字 · 26 页

青空文庫

「では菊弥様、妾もう一度貴郎様にお目にかかることでしょうよ。……そうして一度は、その愛くるしい……」

「斬るぞ!」

キラリと白い光が、新酒のように漲っている夕陽の中に走った。菊弥が三寸ほど抜いたのである。とたんに、女は走って、二人を蔽うようにして繁っている、背後の樺の林の中へ走り込んだ。でも、そこから振り返ると、

「醒ヶ井のお綱は、やるといったこときっとやるってこと、菊弥様、覚えておいで」

婢に案内され、薄暗い部屋から部屋、廊下から廊下へと、菊弥は歩いて行った。

「このお部屋に奥様はお居ででございます」と云いすてて、婢が立ち去った時、菊弥は、古びた襖の前に立っていた。

菊弥は妙に躊躇されて、早速には襖があけられなかった。姉とはいっても、嬰児の時代に別れて、その後一度も逢ったことのない姉のお篠であった。

(どんな人だろう?)という懸念が先立って、懐しいという感情は起こらなかった。

(いつ迄立っていても仕方がない)

こう思って菊弥は襖を開けた。

しばらく部屋の中を見廻していた菊弥は、「あッ」と叫ぶとベッタリ襖を背にして坐ってしまった。

この部屋は、宏大な納谷家の主家の、ずっと奥にあり、四方を他の部屋で包まれており、それに襖が閉めきってあるためか、昼だというのに、黄昏のように暗かった。