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むぎのめ

麦の芽

徳永 直

「中外日報」1930(昭和5)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,532 字 · 10 页

青空文庫

「いたい、いたいッ」

十六七の断髪娘は、立派な洋服を、惜し気なく、泥まみれにしながら、泣き喚いた。

「誰か来てよう――、この百姓をつかまえてちょうだいよう――」

善ニョムさんも、ブルブルにふるえているほど怒っていた。いきなり、娘の服の襟を掴むとズルズル引き摺って、畑のくろのところへ投り出してしまった。

その夕方、善ニョムさんは、息子達夫婦よりも、さきに帰って何喰わぬ顔して寝ていた。

夜になって、息子が山荘庵の地主から使が来て、呼び出されて行ったが、二時間ばかりすると打悄れて帰って来た。

「とっさん、おめえ大変なこと仕出かしたなァ」

息子は枕許で、嘆息と一緒に云った。

六

善ニョムさんが擲りつけた断髪娘は、地主の二番目娘で、二三日前東京から帰っているのだった。それが飼犬と一緒に散歩に出たのを、とっさんに腰がたたないほど、天秤棒で擲られたのだというのだ。

しかし、善ニョムさんはケロリとしていた。

「だけんど、おめえあの娘ッ子が……」

「だけんどじゃねえや、とっさん」

息子は、負けずぎらいな親爺をたしなめるように怒鳴った。

「相手が地主の一人娘じゃねえか」

息子は、分別深く話した。