轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
たそがれ
黄昏
宮本 百合子
「婦人画報」1922(大正11)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,500 字 · 29 页
おくめもまた、聞きたいことは心一杯なのだけれども、何となく、言葉に出しては云い難い。
そのうちに、グヮー、グヮーと濤(なみ)打つような響を立てて、あちらから電車が来た。
おくめは、俄に気を揉み始めて、
「姉さんによろしくね。遊びにおいで」
と云いすてながら、急いで踏段に足をかけようとした。その時、傍に立っていたのぶ子は、何を思ったのか、いきなり二足三足近よって、殆ど自分の口と水平にある母親の耳の中に、
「阿父さんは、万世橋の沢屋にいるのよ」
と、せわせわしく囁いた。
「さあ、お早く!」
車掌が、紐を持って急き立てる。
おくめが、娘の顔を見返す暇もなく、電車はまた上下に揺れながら、広い外壕の通りに沿うて駛(はし)り出してしまったのである。
「あまりいそいだので、のぶ子は我知らず『お父(とっ)さん』と云ってしまったのだろうか」
二つも三つも乗りてのない停留場を飛して行く電車の、ピリピリ震えるガラス窓に、ぼんやり自分の顔を写し、おくめは「阿父さん、阿父さん」という響ばかりを、全身の内に感じた。心は強く一点に捕われ、彼女は、まるで下駄の下にでも、磁石で自ら方向を覚るように呆然、下谷まで帰って来たのである。