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たそがれのこくはく
黄昏の告白
浜尾 四郎
「新青年」博文館、1929(昭和4)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,453 字 · 41 页
彼はこの事件以来ほとんど喪神の態で数ヶ月を過して来た。あれほどまでに愛しあった夫婦である。しかもかくのごとき惨劇のショックは普通のものに対しても容易なものではない。まして大川のごとき、繊細なる神経の所有者である芸術家の場合に、このショックがほとんど致命的のものであることは誰しも疑うことはできまい。
あの惨劇以来、大川竜太郎氏は、遺された一人の娘を妻の里にあずけ、家をたたんで、全然一人となって、この病院に程近きアパートメントに入ったのであった。
さなきだに作品を産出できなかった天才大川は、仇敵米倉三造の盛名日に日にあがるのを見つつ、こうやって惨劇以来の半年を送って来たのであった。
この惨劇が大川竜太郎のこのたびの劇薬自殺事件に関係なしと誰が云えよう。
さて話はふたたび黄昏の病室に戻る。
室はおいおいと暗くなってゆく。
墓場のような静寂は突如大川によって、ふたたび破られた。
「山本、山本……」
「何だ、大川、え?」救われたように山本が答えた。
「君一人か、この部屋は。」
「ああ、今云った通りだ、誰もいない。」
「山本、君は永い間僕の親友でもあり、また医者でもあってくれた。