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おうそんせんせいげんこうろく
黄村先生言行録
「文学界」1943(昭和18)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,786 字 · 27 页
「失礼ですが、旦那がたは、学校関係の?」
「いや、どこにも関係は無い。そちらの書生さんは文士だ。未だ無名の文士だ。私は、失敗者だ。小説も書いた、画もかいた、政治もやった、女に惚れた事もある。けれどもみんな失敗、まあ隠者、そう思っていただきたい。大隠は朝市に隠る、と。」先生は少し酔って来たようである。
「へへ、」大将はあいまいに笑った。「まあ、ご隠居で。」
「手きびしい。一つ飲み給え。」
「もうたくさん。」大将は会釈をして立ち上りかけた。「それでは、これで失礼します。」
「待った、待った。」先生は極度にあわてて大将を引きとめ、「どうしたという事だ。話は、これからです。」
「その話が、たいていわかったもんで、失礼しようと思ったのです。旦那、間が抜けて見えますぜ。」
「手きびしい。まあ坐り給え。」
「私には、ひまがないのです。旦那、山椒魚を酒のさかなにしようたって、それあ無理です。」
「気持の悪い事をおっしゃる。それは誤解です。山椒魚を焼いてたべる人があるという事は書物にも出ていたが、私は食べない。食べて下さいと言われても、私は箸をつけないでしょう。山椒魚の肉を酒のさかなにするなんて、私はそんな豪傑でない。