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おうそんせんせいげんこうろく

黄村先生言行録

太宰 治

「文学界」1943(昭和18)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,786 字 · 27 页

青空文庫

それは書物にも出ている事です。一尺二十円、一丈ならば二百円。」

「はばかりながら三尺五寸だ。一丈の山椒魚がこの世に在ると思い込んでいるところが、いじらしいじゃないか。」

「三尺五寸! 小さい。小さすぎる。伯耆国淀江村の、――」

「およしなさい。見世物の山椒魚は、どれでもこれでもみんな伯耆国は淀江村から出たという事になっているんだ。昔から、そういう事になっているんだ。小さすぎる? 悪かったね。あれでも、私ら親子三人を感心に養ってくれているんだ。一万円でも手放しやしない。一尺二十円とは、笑わせやがる。旦那、間が抜けて見えますぜ。」

「すべて、だめだ。」

「口の悪いのは、私の親切さ。突飛な慾は起さぬがようござんす。それでは、ごめんこうむります。」まじめに言って一礼した。

「お送りする。」

先生は、よろよろと立ち上った。私のほうを見て、悲しそうに微笑んで、

「君、手帖に書いて置いてくれ給え。趣味の古代論者、多忙の生活人に叱咤せらる。そもそも南方の強か、北方の強か。」

酒の酔いと、それから落胆のために、足もとがあぶなっかしく見えた。見世物の大将を送って部屋から出られて、たちまち、ガラガラドシンの大音響、見事に階段を踏みはずしたのである。