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おうそんせんせいげんこうろく

黄村先生言行録

太宰 治

「文学界」1943(昭和18)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,786 字 · 27 页

青空文庫

先生は、親子どんぶり。私は、おしるこ。たべ終って、

「どんぶりも大きいし、ごはんの量も多いね。」

「でも、まずかったでしょう?」

「まずいね。」

また立ち上って、すたすた歩く。先生には、少しも落ちつきがない。中の島の水族館にはいる。

「先生、見事な緋鯉でしょう?」

「見事だね。」すぐ次にうつる。

「先生、これ鮎。やっぱり姿がいいですね。」

「ああ、泳いでるね。」次にうつる。少しも見ていない。

「こんどは鰻です。面白いですね。みんな砂の上に寝そべっていやがる。先生、どこを見ているんですか?」

「うん、鰻。生きているね。」とんちんかんな事ばかり言って、どんどん先へ歩いて行く。

突然、先生はけたたましい叫び声を上げた。

「やあ! 君、山椒魚だ! 山椒魚。たしかに山椒魚だ。生きているじゃないか、君、おそるべきものだねえ。」前世の因縁とでも言うべきか、先生は、その水族館の山椒魚をひとめ見たとたんに、のぼせてしまったのである。

「はじめてだ。」先生は唸るようにして言うのである。「はじめて見た。いや、前にも幾度か見たことがあるような気がするが、こんなに真近かに、あからさまに見たのは、はじめてだ。