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おうそんせんせいげんこうろく
黄村先生言行録
「文学界」1943(昭和18)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,786 字 · 27 页
私の顔を見るなり、
「なんだ、こないだの一物は、あれは両棲類中の有尾類。」わかり切ったような事を、いかにも得意そうに言うのである。「わからんかな。それ、読んで字の如しじゃないか。しっぽがあるから、有尾類さ。あははは。」さすがに、てれくさくなったらしい。笑った。私も笑った。
「しかし、」と先生は、まじめになって、「あれは興味の深い動物、そうじゃ、まさしく珍動物とでも称すべきでありましょう。」いよいよ鹿爪らしくなった。私は縁側に腰をかけ、しぶしぶ懐中から手帖を出した。このように先生が鹿爪らしい調子でものを言い出した時には、私がすぐに手帖を出してそれを筆記しなければならぬ習慣になっていた。いちど私が、よせばいいのに、先生のご機嫌をとろうと思って、先生の座談はとても面白い、ちょっと筆記させていただきます、と言って手帖を出したら、それが、いたく先生のお気に召して、それからは、ややもすれば、坐り直してゆっくりした口調でものを言いたがり、私が手帖を出さないと、なんともいえない渋いまずい顔をなさって、そうしてチクリチクリと妙な皮肉めいた事を言いはじめるので、どうしても私は手帖を出さざるを得なくなるのである。