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こくてん

黒点

豊島 与志雄

――或る青年の「回想記」の一節――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页

青空文庫

「あなたは西村さんの坊ちゃんじゃありませんか。」

私は喫驚して立止った。そんな丁寧な口を利かれたことは滅多になかったのである。

「西村さんの坊ちゃんでしょう。」

「そうだよ。」と私は多少得意になって答えた。

「そんなら、あの……寺田さんをよく知っていらした……。」

男は腰を低く屈めながら私の顔を覗きこんできた。

「そうだよ。」と私は答えた。

「では、寺田さんの居所を教えてくれませんか。わたしはもと、寺田さんと一緒に、子分同様に働いてた者ですが、急に用が出来て、寺田さんを尋ね廻ってるんです。何処へ行っても分らないから、あなたのことを思い出して……ええ、寺田さんから聞いていたんですよ……あなたなら御存じだろうと思って、家の方へ尋ねていくと、学校からまだ帰らないというんで、学校へ行ってみようと思ってたところです。……ねえ、坊ちゃん、寺田さんは今、何処にいるんです。」

「僕は知らないよ。」

私は相手の様子を見調べた。初めから何だか変な奴だなという気がした。かねて聞いてたところでは、職工とそうでない者とは、手を見れば、殊に手の節を見れば、一番よく見分けがつくそうだった。