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こくてん
黒点
豊島 与志雄
――或る青年の「回想記」の一節――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页
私は頭から布団を被った。長く眠れなかったような気がする。父母と姉とはまだ起きていた。間を置いては何だかもそもそ話をしていた。
私は父の方のことは殆んど気付かなかった。そして新たな興味でお清に近づいていった。姉の話を聞いてから、お清が何だか晴れやかな華々しいものに思われた。それは自分達のじめじめした生活とは全く別な世界のようだった。
前に述べた通り、私は彼女と顔を合せる機会はごく少かったが、それでも日曜日にはいつでも逢えた。彼女は姉と連立ってカフェーに往復していたので、朝はよく姉を誘いに来た。それからまた彼女は屡々カフェーを休んでいた。そんな時は大抵午近くまで寝ていて、何処かへ出かけてゆくこともあり、室の中でぼんやりしてることもあった。
私は不器用だった。いきなりぞんざいに近寄っていったり、遠くからこわごわ眺めたりした。それを彼女は殆んど気にも留めないらしかった。
その代り、妹のお三代は彼女によく馴染んでいた。彼女の方でも千代紙なんかを買ってきてくれることがあった。そしていつも「みいちゃん」と呼んでいた。そのやさしい呼名がお三代をひどく喜ばせたらしい。