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こくてん
黒点
豊島 与志雄
――或る青年の「回想記」の一節――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页
ね、いいでしょう。一人で来られるでしょう。その時間にあたしが待っててあげるわ。」
一度決心すると、彼女はなぜかひどく面白がっていた。そして、翌々日が階下の番だから、その七時に待ってると云い出した。
「昼間はいないかも知れないから、晩の方がいいわよ。でも家から出られて……。そう、じゃあ屹度よ。間違えると承知しないわよ。あの……神保町の四つ角に交番があるでしょう。知ってて……。そう。あの交番の時計がきっかり七時になったら、一二一二って歩いてくるのよ。あたしあの時計に自分のを合して、入口で待っててあげるわ。」
私はその通りにすると誓った。
「ああそれから、あんたお金があって。」
「ないよ。」と私は小声で答えた。
「じゃあ、これを持っていらっしゃい。あすこじゃ都合が悪いから。」
彼女は小さな蟇口から五十銭銀貨を二つ出してくれた。私は驚いた。一円そこいらではとても行けないと思っていたのである。
「これでいいの。」
「ええ。」
「これくらいなら持ってるよ。」
「じゃあそれも一緒に持ってくるといいわ。……よくって。交番の時計がきっかり七時になったら、一二一二って歩き出すのよ。