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くろねことみ
黒猫十三
大倉 燁子
「キング 一二巻一号」1936(昭和11)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,366 字 · 29 页
――実は、急にまた事件が突発してね、これからそっちへ行かなけりゃならんのだが。――それにまあお詫は早い方がお互に気持ちがいいからね。君、昨夜は随分、疲れたでしょう?」
本庄ははッとして眼を落した。背中に冷汗がじッとりと染み出るのを感じた。
宮岡警部は横目で彼を見て、隣室の扉の方へ笑いながら声をかけた。
「トミー、来いよ。――本庄君を紹介するから――」
声と同時に扉が開いて、一人の女が黒猫を抱いて、すうッと入って来た。彼は慌てて椅子から起ち上り、顔を見合せた瞬間、息が止まるかと思うほど驚いた。それは前夜浚われたと思い込んでいたかの少女であったから。いや、そればかりではない、彼は生れてから、これほど魅力を有った顔を見たことがなかったからだ。綺麗に剃りつけた細い眉、理智的に美しい顔は、パーマネント・ウェーヴの真黒な髪の毛を背景にして、くッきりと輪廓を浮き出させている。柔軟な体を包んでいる黒天鵞絨のワンピースが、細そりした姿に重そうで、ややもすると撫で肩から辷べり落ちそうだ、それがまた大変艶めかしく、彼の目に映じた。首筋にも、肩にも、殊に左の方は注意して見たが、傷らしい跡はどこにも残っていなかった。