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つづみくらべ
鼓くらべ
山本 周五郎
「少女の友」1941(昭和16)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,577 字 · 18 页
……そして、どこか遠くを見るような眼つきをしながら、ふところ手をしている左の肩を、そっと揺りあげた。
それから二日ほどすると、急にお留伊は金沢へ行くことになった。師匠の勧めで、城下の観世家から手直しをして貰うためである。その稽古は二十日ほどかかった。観世家でもお留伊の腕は抜群だと云われ、大師匠が自分で熱心に稽古をつけて呉れた。……もう鼓くらべで一番の賞を得ることは確実だった。大師匠もそうほのめかせていたし、それ以上にお留伊は強い自信を持っていた。
森本へ帰ったのは十二月の押迫った頃であった。――あの老絵師はどうしているだろう。家へ帰って、なによりも先に考えたのはそのことだった。……まだこの町にいるだろうか、それとも故郷の福井へもう立って行ったか。若しまだいるとすれば、自分の鼓を聴きに来るに違いない。お留伊はそう思いながら、残っている僅かの日を、一日も怠らず離れ屋で鼓の稽古に暮していた。
けれど老人の姿は見えなかった。
すでに雪の季節に入っていた。重たく空にひろがった雲は今やまったく動かなくなり、毎日こまかい雪がちらちらと絶えず降ったり歇んだりした。