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いしがおごる

いしが奢る

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《いしが奢る(いしがおごる)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,304 字 · 45 頁

青空文庫

飲ませてやると、美味そうにたっぷり飲んだ。

「気分はどうだ、なんともないか」

「――ずっと、いて下すったのね」

「これだからね」保馬は握られている手を振ってみせた、「ずっと放さないんだぜ」

いしは唇で笑った。保馬はそっといしの胸を指して云った。

「まだここになにか残っているかい」

いしは保馬を訝しそうに見た。それからゆっくりと頭を振り、かすれた低い声で、保馬をじっと見つめながら云った。

「――みんな出ちゃいました」

「残ってるものはないんだね」

「――ええすっかり……からっぽです」

保馬は頷いてみせた。するといしの手に力がはいって、彼の指を痛いほど緊めつけた。いしの眼から涙がこぼれ落ちた。

――外島が来るかもしれない。

こう思ったので、堀と仲田に警戒を命じた。外島がどこへ逃げるにしても、いちどはいしのところへ来るに違いない。必ず来るだろうと思った。しかしその夜はなにごともなく、静かに明けていった。

朝になってから、外島のことがわかった。彼は三人の浪人者といっしょに「えびす丸」という船を奪って逃げたのである。それは八幡屋の持ち船であったが、外島ら四人は刀を抜いて船頭を威し、そのまま海へ逃げたそうである。