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そのきどをとおって

その木戸を通って

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《その木戸を通って(そのきどをとおって)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 22,448 字 · 44 頁

青空文庫

「口がすべりました」彼はいさぎよく低頭して云った、「仰しゃるとおり父が来るまで待ちます、いま申上げたことはお忘れ下さい」

彼は明るい気分で田原家を出た。

十二月十日に藩主が帰国し、側用人である父の勘解由もその供をして来た。そうして田原と父と話しあった結果、ふさを娶るということは正式に認められ、年が明けて二月八日に祝言がおこなわれた。ふさは田原家の養女となり、仲人は中老の沢橋八郎兵衛であった。――祝言から二日めのことであるが、勘解由は正四郎を呼んで、おてまえほど親にさからうやつはない、と怒った。よく聞いてみると、加島家との縁談は父の奔走によるもので、田原は取次をしたにすぎない、ということであった。

「加島家と親族になることは、おまえの将来にどれほど役立つかわからない」と父は云った、「おまえはたぶん、妻の縁故で出世するなどとは恥辱だとでも思ったのだろうが、そんな青くさい考えでは、平松という名門の家を再興させることはむずかしいぞ」

正四郎は黙っていた。問題がこうなったのは自分の責任ではない、自分はともえを貰いたかったのだ、そう云おうとしたが、いまさら弁解したところでどうなるものでもなし、いまではふさを愛してい、現に結婚したという事実があるので、黙って小言を聞くよりしようがないと思った。