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それから

それから

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《それから》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 172,794 字 · 347 頁

青空文庫

そのうち、強い日に射付けられた頭が、海の様に動き始めた。立ち留まっていると、倒れそうになった。歩き出すと、大地が大きな波紋を描いた。代助は苦しさを忍んで這う様に家へ帰った。夕食も食わずに倒れたなり動かずにいた。その時恐るべき日は漸く落ちて、夜が次第に星の色を濃くした。代助は暗さと涼しさのうちに始めて蘇生った。そうして頭を露に打たせながら、又三千代のいる所まで遣って来たのである。

代助は三千代の門前を二三度行ったり来たりした。軒燈の下へ来るたびに立ち留まって、耳を澄ました。五分乃至十分は凝としていた。しかし家の中の様子はまるで分らなかった。凡てが寂としていた。

代助が軒燈の下へ来て立ち留まるたびに、守宮が軒燈の硝子にぴたりと身体を貼り付けていた。黒い影は斜に映ったまま何時でも動かなかった。

代助は守宮に気が付く毎に厭な心持がした。その動かない姿が妙に気に掛った。彼の精神は鋭さの余りから来る迷信に陥った。三千代は危険だと想像した。三千代は今苦しみつつあると想像した。三千代は今死につつあると想像した。三千代は死ぬ前に、もう一遍自分に逢いたがって、死に切れずに息を偸んで生きていると想像した。