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へちまのき

へちまの木

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《へちまの木(へちまのき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 29,120 字 · 58 頁

青空文庫

の抵抗を感じるのであった。

「さあ値上げだ」突然、記事を書きとばしながら木内が云いだした、「月手当の値上げだ、さあさあ値上げだ値上げだ」

「こっちも値上げだ」と隣りの八帖から彫り師の源さんの声が聞えた、「お店はほかに幾らもあるんだ、こんな手当で仕事をするなんてもうまっぴらだ」

その声を聞いて、木内桜谷がにやりとし、肩をすくめるのを房二郎は見た。

「そうだ値上げだ」と隣りの八帖から、こんどは絵師の常さんの声が聞えた、「子供の絵本を描いたって、もう少しはましな銭にならあ」

摺師の松やんはなにも云わず、なにかを刷っているばれんの、きゅっきゅっという音だけが、休みなしに聞えた。そこへ木原桜水がはいって来、皮肉な笑いをうかべながら、だいぶ賑やかですねと云って、記事だねの紙を木内桜谷の机の上に置いた。

「辻斬りと、子供が大八車にひき殺された話です」と木原は云った、「辻斬りは浅草の二天門外、子供のひき殺されたのは神田の鍛冶町、子供は三つの女の子だったそうです」

「たまには屑だねでねえのを持ってこいよ」木内は筆の手を休めずに云った、「そんな記事じゃあいくら売り子がそそっても、瓦版は売れやしねえぜ」