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きなだむら

ゼーロン・淡雪 他十一篇

牧野 信一

線上閱讀牧野 信一《ゼーロン・淡雪 他十一篇(きなだむら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 27,321 字 · 54 頁

青空文庫

出歩きを怕がって、万豊などに使を頼むのは無駄だから、これから二人がかりでそれぞれの註文主へ納め、暫くぶりで倉の外で晩飯を摂ろうではないかと御面師が促すのであった。

「ひと思いに、景気好く酒でも飲んだら案外元気がつくでしょうが。」

「……僕もそんな気がするよ。」と私は決心した。仕上げの済んだ面を、彼がそれぞれ紙につつんで、私に渡すに従って、私は筆を執って宛名を誌した。

「ええ、赤鬼、青鬼――これは橋場の柳下杉十郎と松二郎。お次は狐が一つ、鳥居前の堀田忠吉。――いいですか、お次は天狗が大小、養魚場の宇佐見金蔵……」

御面師は節をつけてそれぞれの宛名を私に告げるのであった。私は宛名を誌しながら、次々の註文主の顔を思い浮べ、あの四、五人が先ず最近の血祭りにあげられるという専らの噂だがと思った。

何十日も倉の中に籠ったきりで、たまたま外気にあたってみると雲を踏んでいるような思いもしたが、さすがに胸の底には生返った泉を覚えた。――随分とみごとに面の数々がそちこちの家ごとに行渡ったもので、家々の前に差かかる度に振返って見ると、夕餉の食卓を囲んだ燈の下で、面を弄んでいる光景で続けさまに窺われた。