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きなだむら
ゼーロン・淡雪 他十一篇
牧野 信一
線上閱讀牧野 信一《ゼーロン・淡雪 他十一篇(きなだむら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 27,321 字 · 54 頁
現に私も目撃した。花見の折からで「サクラ音頭」なる囃子が隆盛を極めていた。夜ごと夜ごと、鎮守の森からは、陽気な歌や素晴しい囃子の響が鳴り渡って、村人は夜の更けるのも忘れた。あまり面白そうなので私も折々遅ればせに出かけては石燈籠の台に登ったりして、七重八重の見物人の上からじっと円舞者連の姿を見守っていた。円陣の中央には櫓がしつらわれ、はじめて運び込まれたという、拡声機からはレコードの音頭歌が鳴りもやまずに繰返されて梢から梢へこだました。それといっしょに櫓の上に陣取っているお囃子連の笛、太鼓、擂鉦、拍子木が節面白く調子を合せると、それッとばかりに雲のような見物の群が合の手を合唱する大乱痴気に浮されて、われもわれもと踊手の数を増すばかりで、終いには円陣までもが身動きもならぬほどに立込み、大半の者は足踏のままに浮れ呆け、踊り痴けていた。――そのうちに向方の社殿のあたりから、妙に不調和な笑い声とも鬨の声ともつかぬどよめきが起って、突然二十人ちかい一団がわッと風を巻いて森を突き走り出た。でも、踊りの方は全くそっちの事件には素知らぬ気色で相変らず浮れつづけ見物の者もまた、誰ひとり眼もくれようともせず、知って空呆けている風だった。