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さぶろうじい
三郎爺
宮本 百合子
線上閱讀宮本 百合子《三郎爺(さぶろうじい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 24,866 字 · 50 頁
五六年先までは十日ぐらいの徹夜で、居睡りさえしなかった人も、弱り出すと案外脆(もろ)くて、七十ぐらいになっていた老母が、まだしゃんしゃんしているうちに、口も捗々しくはきけないようになってしまった。
あたりの景色が、一目で見晴らせる居間に床をのべて、詩を作ったり、著述をしたりしながら、気任せな日を送るようになると、山沢さんは、もう理窟っぽい人を見るのも嫌いになって来た。
暇さえあれば、三郎爺を傍に引きよせて、体中を撫でさせながら、罪もない昔話にふけることが何よりの楽みらしく見えたのである。
年はそう違わないのだが、大藩の立派な武士に生れ、東京にも住み、いろいろの目に会って来ている山沢さんが、彼の珍しがるような話をすると、三郎は三郎でまた、子供に話して聞かせるように手真似、口真似で、ここがまだ狐っ原だった時分の追想を語る。
静かなあたりの空気を揺って、四五十年の年を、逆に遡(さかのぼ)った長閑な、楽しそうな笑声が、二人の口を突いて出ることも珍しくはなかった。
平常の通り心持はゆったりとし、余裕はありながら、山沢さんが自分の死期の近づいたことを知っていることが、彼の心に感じられた。