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さぶろうじい
三郎爺
宮本 百合子
線上閱讀宮本 百合子《三郎爺(さぶろうじい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 24,866 字 · 50 頁
三郎爺
宮本百合子
一
今からはもう、六十七八年もの昔まだ嘉永何年といった時分のことである。
江戸や上方の者からは、世界のはてか、毛むくじゃらな荒夷(あらえびす)の住家ぐらいに思われていた奥州の、草茫々(ぼうぼう)とした野原の片端れや、笹熊の横行する山際に、わずかの田畑を耕して暮していた百姓達は、また実際狐や狸などと、今の我々には解らない関係を持って生活していたものらしい。
冬枯れの霜におののく、ほの白い薄(すすき)の穂を分けて、狐の嫁入行列が通ったり、夜道をする旅人の肩に、ちょいと止まった狸が、鼻の先きに片手をぶら下げると、それが行手をふさぐ大入道のように見えたりしたことは、彼等の考えから云わせれば、決して「気の迷い」ではなかったのだそうだ。
私共が、往来でガス燈を見るような度数と心持とで彼等は狐火を見、兄弟達とふざけるように楽な気持でだまされたり、つままれたりしたとみえる。そして、その時分には梟(ふくろう)まで一かど火の玉を飛ばせるくらいの術は心得ていたのだそうだ。
こういう時と場所とに生れ合わせた三郎爺は、もちろん一人だけ、仲間はずれになられるはずのものではない。