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にかいから

二階から

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《二階から(にかいから)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 14,761 字 · 30 頁

青空文庫

その傍に美しい娘が店を開いていたのであるから、評判になったも無理はない。

おてつの店は明治十八、九年頃まで営業を続けていたかと思う。私の記憶に残っている女主人のおてつは、もう四十位であったらしい。眉を落して歯を染めた小作りの年増であった。聟を貰ったがまた別れたとかいうことで、十一、二の男の児を持っていた。美しい娘も老いて俤が変ったのであろう。私の稚い眼には格別の美人とも見えなかった。店の入口には小さい庭があって、飛石伝いに奥へ這入るようになっていた。門の際には高い八つ手が栽えてあって、その葉かげに腰を屈めておてつが毎朝入口を掃いているのを見た。汁粉と牡丹餅とを売っているのであるが、私が知っている頃には店も甚だ寂れて、汁粉も牡丹餅もあまり旨くはなかったらしい。近所ではあったが、私は滅多に食いに行ったことはなかった。

おてつ牡丹餅の跡へは、万屋という酒屋が移って来て、家屋も全部新築して今日まで繁昌している。おてつ親子は麻布の方へ引越したとか聞いているが、その後の消息は絶えてしまった。

私の貰った茶碗はそのおてつの形見である。O君の阿父さんは近所に住んでいて、昔からおてつの家とは懇意にしていた。