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にかいから

二階から

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《二階から(にかいから)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 14,761 字 · 30 頁

青空文庫

十一 狐妖

そうして、その父も明治三十五年にやはりインフルエンザで死んだ。

十一 狐妖

音楽家のS君が来て、狐の軍人という恠談を話して聞かせた。

それは明治二十五年の夏であった。軍人出身のS君はその当時見習士官として北の国の○○師団司令部に勤務中で、しかも自分が当番の夜の出来事であるから決して誤謬はないと断言した。狐が軍人に化けて火薬庫の衛兵を脅かそうとしたというのである。赤羽や宇治の火薬庫事件が頭に残っている際であるから、私は一種の興味を以てその話を聴いた。

どこも同じことで、火薬庫のある附近には、岡がある、森がある、草が深い。殊に夏の初めであるから、森の青葉は昼でも薄暗いほどに茂っていた。その森の間から夜半の一時頃に一つの提灯がぼんやりとあらわれた。歩哨の衛兵が能く視ると、それは陸軍の提灯で別に不思議もなかった。段々近いて来ると、提灯の持主は予て顔を見識っているM大尉で、身には大尉の軍服を着けていた。しかし規則であるから、衛兵は銃剣を構えて「誰かッ」と一応咎めたが、大尉は何とも返事をしないで衛兵の前に突っ立っていた。

返事をしない以上は直に突き殺しても差支ないのであるが、みすみすそれが顔を見識っている大尉であるだけに、衛兵もさすがに躊躇した。