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のぶこ

伸子

宮本 百合子

線上閱讀宮本 百合子《伸子(のぶこ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 232,543 字 · 466 頁

青空文庫

用事はそのことなのであった。伸子は、自分が書いたものによって惹き起されたいざこざに、佃を巻き込むのは真に厭であった。気の毒でもあるし、ここだけは自分の世界と思う心の中へ、どたどた多くの者に踏み込まれるのが辛かった。佃は、もちろん読んだに違いないのだが、それについて彼女には、一言も云わなかった。

動坂へ行くと、二人はいきなり二階に通された。絵の稽古の赤毛氈などすっかり片づけ、隅の螺鈿の小箪笥だけが、遠い燈火にきらめいていた。母が上って来て、床の間の前に、一つだけ離して置いてある座蒲団の上に坐った。伸子は、まわりから圧しつけるような扱い方に対して、反撥を感じずにいられなくなった。世間話を一つ二つして、多計代は、

「わざわざあなたまでお呼びしたのは、ほかのことじゃあありませんが」

という風に切り出した。

「この間は、何だかぐずぐずで伸子を帰してしまいましたが、私は、あれからずっと考えつづけて、夜も碌に眠らない程だったのです。いずれ、伸子からおききでしたろうが、あなたからも、意見をおききしたいと思いましてね」

「お迎えだったから佃も上ったんだけれど、これは、母様と私だけが話してすむことと思うわ、佃は、関係のない人でしょう」