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げんろくじゅうさんねん

元禄十三年

林 不忘

線上閱讀林 不忘《元禄十三年(げんろくじゅうさんねん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 20,586 字 · 42 頁

青空文庫

「岡部美濃守です。」

ぶっきら棒にいうと、中納言は、笑って、

「関東は武をもって治むる国である。頼母しい御体格ですな。定めしお力があろう。見たい。」

「心得ました。」

と、それを掛け声に、美濃守は、やにわに、すぐ前を往く吉良に手をかけた。

「何をなさる! 乱心――。」

いたが、枯れた吉良のからだは、美濃守の両手に差しあげられて、頭のうえを高く、空に泳いでいた。

烏帽子がまがり、中啓が、飛んだ。と、吉良は、美濃守に受けとめられて、すうっと、労わるように、抱き下ろされていた。

武骨な座興――として、笑い声をあとに、天奏衆は、もう、かなり先へ進んで行っていた。出雲守をはじめ、あっけにとられた人々の顔が、まわりにあった。

吉良は口がきけなかった。なんという暴!――もはや、これまでだと思った。

「美濃、待てっ!」

叫んだ――ような気がした。同時に、家を捨て、身を忘れて、腰の小さな刀に手を――かけた自分を、とっさに、想像してみた。

美濃守は、すでに、平気で、むこうへ歩いて行こうとしていた。

刃傷だった。吉良は、それを、一瞬にこころに描いた。

殿中だった。松の廊下だった。