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やつがたけのまじん

八ヶ嶽の魔神

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,664 字 · 323 頁

青空文庫

仮想の敵があるために、彼の技倆は一日一日と上達をするばかりであった。

こうして六年は経過した。葉之助は十八歳となり、一人前の男となった。

「おお葉之助か近う参れ」

ある日、それは夕方であったが、駿河守はこう云って鏡葉之助を膝近く呼んだ。

「は」と云って辷り寄る。「何かご用でござりますか?」

「そちに吩咐けることがある」

駿河守は真面目に云う。

「は、何ご用でござりましょう?」

「今宵妖怪を退治て参れ」

「して、妖怪と仰せられますは?」さすがの葉之助も不安そうに訊き返さざるを得なかった。

「そちも噂は聞いていよう。永く当家の金ご用を勤めるあの大鳥井紋兵衛の邸へ、最近繁々妖怪出で紋兵衛を悩ますということであるが、当家にとっては功労ある男、ただし少しく強慾に過ぎ不人情の仕打ちもあるとかで、諸人の評判はよくないが、打ち棄てて置くも気の毒なもの、そち参って力になるよう」

「は」

とは云ったが葉之助は、躊躇わざるを得なかった。

いかにも彼はその噂を世間の評判で知っていた。久しい前から紋兵衛の邸へ異形の怪物が集まって来て、泣いたり嚇したり懇願したり、果ては呪詛の言葉を吐いたり、最後にはきっと声を揃え、「返してくだされ! 返してくだされ!」