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はつつぼみ

初蕾

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《初蕾(はつつぼみ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 17,525 字 · 35 頁

青空文庫

――信じられるのは自分だけだ、世間や人を信じたら泣かされるにきまっているんだ、好きも嫌いもあるものか稼げ稼げ。

そういう風に自分を唆しかけていた、八両なにがしという借金を返し、着物も二枚、三枚と作れるようになったのは、十八になった今年の春からだった。そこへ梶井半之助が現われたのである。……初めは「島喜」という名で知られた島屋喜右衛門の案内で来た。「島喜」は鳥羽で廻船問屋をしている富豪で、藩侯稲垣家のお勝手御用も勤めている。喜右衛門はもう隠居だったが、藩家の用事は自分が扱っているので、重役たちを伴れてしばしばふじむらへ来た。半之助の父は梶井良左衛門といって、稲垣家の港奉行だったから、その関係で半之助をも伴れて来たようだった。

……お民は初めから彼に惹きつけられた、けっして美男ではない、笑うと眼が糸を引いたように細くなるし、背はあまり高くないし、声は少し鼻にかかるし、酔ってうたう歌は調子ぱずれだし、どこといってとりえのない風貌である。しかしぜんたいの人柄がいかにも自然で、みえや衒いが少しもなく、向いあっていると、ゆったりと大きな温かいもので、静かに押包まれるような気持に唆られる、……温かくふんわりと包まれる、お民はその感じに全身をつかまれ、まるで崩れるように彼のふところへとびこんでしまった。