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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《剣難女難(けんなんじょなん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 頁
月を背負った伝吉の顔は暗いが、侍の姿は、正面から、ありありと浮き出されている。
しばらく、互いに瞳を磨いで、歩一歩と近づいた時。
「や!」
双方、同時に、そう云ったまま顔を見合せて立ち竦んでしまった。
「伝吉ではないか」
「新九郎様? おお! やっぱり新九郎様でごぜえましたか」
伝吉は意外のあまり――嬉しいあまりしばらくはぼんやりしてしまった。
「ええ、まア何ていうお変りようです……僅か見ないうちに、そのお姿、前髪もおとり遊ばして、まったく見違えてしまいました」
「して、そちは何の為に今ごろこの辺りに参っているのじゃ」
「新九郎様、くわしいお話はとにかくも、貴方様の書き遺したお手紙をみて、兄上様は云うまでもなく正木作左衛門様のお喜びといったら、とても、口にも云いつくされねえばかりです。そして、正木様ご自身のお手から、是非、新九郎殿に渡してくれと頼まれたお品がこれでござります」
と伝吉が、背中へ掛けている、桐油紙づつみの品を解きながら、辻堂の縁へ歩み寄った時、再び、はッとしてそこを見た。
新九郎も瞳を吸いつけて、思わず襟もとから、ゾーと水を浴びたように竦んでしまった。