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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《剣難女難(けんなんじょなん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 243,807 字 · 482 頁

青空文庫

使者が帰ると、忠房は忘れたように、酒肴を命じて春日兄弟をもてなした。いつもなら酒を飲むというより、酒に吸い込まれて行くような新九郎も、今の話を洩れ聞き、兄や千浪を前にしては盃をとる気力もなかった。

「新九郎、なぜ過ごさぬのじゃ」

「はっ……」

「重蔵もちと相手をしてやったらどうじゃ。京極家からあのような懸合いが参ったからとて、別段驚くことはない」

忠房は快活に笑った。

「日が暮れたら、夜に紛れて新九郎は当屋敷を落ちのびてしまうがよい。これは玄蕃めを匿うた京極の策を同じようにし返してやるのじゃ。ははははは。後はこの忠房が引き受けた。必ずとも心配いたすな」

「殿様――」

その時、新九郎はズイと膝を進めた。

「お、何じゃ」

「お別れでござります……、初めてお目通りを得ました新九郎も、また今宵を限りにお別れと相成りまする」

「ウム別れじゃの……したが、そちは必ず、当家の迷惑を顧慮して、京極家などへ身を捨てに参るなよ」

「えっ……」

新九郎は、胸の裡を見透かされて、思わずはッと頭を下げた。

「よいか……たしかそちには、鐘巻自斎を打ち込んで、桔梗河原の汚辱をそそいでくれる大役があった筈じゃ。