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きゅうけつき

吸血鬼

江戸川 乱歩

線上閱讀江戸川 乱歩《吸血鬼(きゅうけつき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 190,554 字 · 381 頁

青空文庫

考える力もない。泣くには余りに恐ろしい身の上だ。

「茂ちゃん。いい子ですから、怖わくないわね」

母はただ愛児を気づかった。

「僕怖くないの、ちっとも」

その癖少年の声は、恐怖に戦いていた。抱きしめた小さい体が、あわれな小犬の様に、ビクビクけいれんしていた。

落ちつくに従って、井戸の底の寒さが身にしみた。

それにつけても、何という行届いた三谷の心遣いであったか。あのあわただしい場合、よく蒲団のことまで気がついたものだ。そのお蔭で、古井戸の底の身にしむ寒気の中で、足の下ばかりは、フカフカと、厚いクッションの様に暖かいのだ。

倭文子は、その夜具の端のあまった部分を、茂にもかけてやり、自分も肩にまいて、更に寒さをしのぐ工夫をした。

だが、若しも彼女が、その厚い夜具の下に、何があるかを知ったならば、感謝するどころか、いかに刑罰が恐ろしいからとて、最早や一刻も、井戸の底に隠れている気はしなかったに相違ない。

重なり合った夜具の下に、すぐ土があるのではなかった。夜具と土との間に、ある身の毛もよだつ物体が横たわっていたのだ。それが何であったかは、間もなく読者に分る時が来るであろう。