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そうせきしとわたし
回想 子規・漱石
高浜 虚子
線上閱讀高浜 虚子《回想 子規・漱石(そうせきしとわたし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 115,187 字 · 231 頁
その二十四番地に狩野という名札を見出して私は案内を乞うた。狩野氏の事に就いては漱石氏から時々話を聞いていた。現に私は漱石氏の最も信頼する友人として明治三十年頃紹介状をもらった事すらあった。もっとも私はその頃差支があってその紹介状はそのままにして狩野氏に逢う機会を見出さなかった。その紹介状は現に私の手元に残っていて、そうして初めて狩野氏に逢ったのは実に漱石氏の瞑目するその当夜であった。閑話休題として、その狩野氏は妻君を持たないで独身生活をつづけているという事を私は予て漱石氏から聞いていたが、春雨の降って居る門内の白い土を踏んでその玄関に立った時私はあたかも寺の庫裡にも這入ったような清い冷たい感じを受けた。玄関には支那の書物らしいものがやや乱雑に積重ねてあって、古びた毛氈のような赤い布が何物かの上に置いてあった。その毛氈の赤い色が強く私の目を射た。それは確かに赤い色には相違なかったが、少しも脂粉の気を誘うようなものではなかった。表に降って居る春雨も、一度この玄関内の光景に接すると忽ちその艶を失ってしまうように思われた。私の案内の声に応じて現われたのは一人の破袴を穿いた丈高い書生さんであった。