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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
線上閱讀蒲原 有明《夢は呼び交す(ゆめはよびかわす)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 頁
しかしとんぼの代りに名利を釣る。世間の誰しもがそういう考になる。そんな平俗の意味すらかれにははっきりとしていなかった。随って名利に対する興味が浅かった。つまるところ、かれには欲望の発達が、どこか性情に欠陥があって、他よりも鈍っていたものとも思われる。その穴を自然が来てうずめてくれたのである。
少年の鶴見は当時の風潮に従って新聞では『読売』、雑誌では『国民之友』を読むことにした。新聞はとにかく、雑誌を毎号手にするということはこれがはじめてである。明治二十三年の新年からであった。『国民之友』は春秋二期に文芸附録を添える。前年の新年にはS・S・Sの「於母影」が載せられ、ことしは鴎外署名の「舞姫」が附録の巻頭を飾った。その書き出しが素晴しかった。今までに全く知られなかった新味と独特の風格とを併せ備えた名文章である。少年のかれは一読するや直ちに魅惑せられてしまった。古びることを知らぬ文章というものがそこに展開せられているのである。ただ一つその文章のなかで分らぬことがあった。ニルアドミラリということである。うぶな少年にはついぞ経験せぬ心的状態である。それは聡明な鴎外が不満足感を洩らすために、たまたま気をぬいて見せた、いわば精神的に贅沢なあそびの態度である。