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だいぼさつとうげ

大菩薩峠1

中里 介山

線上閱讀中里 介山《大菩薩峠1(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 200,314 字 · 398 頁

青空文庫

蒸してきた空気のために、太鼓の音も泥をかき廻すようで、竜之助もお豊も何かの力で強く押されているようです。

そうは言ったけれど、竜之助は再び酒杯を手に取ろうとはせず。

お豊は、こころもち膝をこちらに向けるようにして、二人は、やはり蒸し暑い空気に抑えられてだまっていると、蚊遣火の煙は、その間に立ち迷うて見えます。

「お豊どの、そなたも遠からず伊勢へ帰られるそうな」

「どうなりますことやら」

「さてさて世間には、身の始末に困った人が多いことじゃ」

竜之助は、このとき少しく笑う。

「生きている間は故郷へは帰るまいと思います、帰られた義理ではありませぬ」

「なるほど……」

「伯父は遠からず連れて帰ると申しますけれど、わたしは帰らぬつもりでございます」

「して、永くこの地に留まるお考えか」

「いいえ」

「では、どこへ」

「あの、私はいっそ、生きているならばお江戸へ行って暮らしたいと思いまする」

「江戸へ――」

「はい、江戸には叔母に当る人もあるのでございますから、それを頼って、あちらで暮らしてみたいと思っておりまする」

「うむ、江戸で暮らす――それもまた思いつきじゃ」

「それにつきまして、あなた様には……関東へお立ちの時に……」